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最も権威ある賞が生んだ、最も斬新なアート
英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展
- 英国現代美術、3つの時代
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 開催概要
「英国美術の現在史:
ターナー賞の歩み展」


期日: 2008年4月25日(金)~7月13日(日)<会期中無休>
時間: 月・水~日 10:00~22:00、火 10:00~17:00
※ 4/29(火)、5/6(火)は22:00まで
※ いずれも入館は閉館時間の30分前まで
場所: 森美術館(森タワー53階)
入館料: 一般 ¥1,500、学生(高校・大学生)¥1,000、子供(4歳以上-中学生)¥500
入館料: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
■チケットぴあ[Pコード:688-401]にてご購入いただけます。
※ 表示料金に消費税込
※ 本展のチケットで「MAMプロジェクト007:サスキア・オルドウォーバース」、展望台 東京シティビューにもご入館いただけます。
※ ご利用当日のみ有効
森美術館 ウェブサイト
英国現代美術、3つの時代
このターナー賞というのは、作品個々に対してではなく、その作家の前年に優れた展覧会を行った作家に対して与えられる賞です。
そのため、作品個々のインパクトもさることながら、その時の作家活動全体が評価の対象となっているため、結果として、その年の社会や世相を反映している作品、逆に世間や人々に影響を与える創作活動が多くノミネート・受賞されることになるのかもしれません。
受賞作品が時代の潮流を表しているため、80年代、90年代、00年代とその時代の英国社会を併せて考えながら受賞作品を楽しむことができるでしょう。
ターナー賞は、「新しい美術のパトロン」というテート・ギャラリーのパトロン団体が、一般市民が新しい美術に関心を持つことを目的に設立しました。80年代の英国ではニュー・ブリティッシュ・スカルプチュアと呼ばれる立体作品が多く制作された時代です。
88年に受賞したトニー・クラッグの《ウェディング》は、一見美しい二組のボトルのフォルムですが、良く見ると捨てられたプラスチックの破片などの、いわば「ゴミ」で作られていて、消費社会への批判を現しているかのようです。作家によると、この白と緑の二つのボトルは作家自身と当時の妻を表しているそうで、このように社会への批判・提言と個人的な事象とを立体作品という形に昇華させる創作活動が、この年代の特徴と言えるようです。
日本でも知名度の高いギルバート&ジョージは、Living Sculpture(生きる彫刻)と自らを呼び、スーツ姿で自らがモデルになって写真作品の中に登場します。今回の出展作は、失業問題が深刻な問題となったサッチャー政権下で、若者の失望や鬱屈とした感情をポップに表現しています。
トニー・クラッグ《ウェディング》 1982年
224 x 200 x 50cm
拾集されたプラスチック
ギャラリーHAM、愛知蔵
ギルバート&ジョージ《デス・アフター・ライフ》 1984年
482 x 1105cm
写真に着色
大阪市立近代美術館建設準備室蔵


ある程度国際的にも認められた作家が多くノミネートされ、試行錯誤を繰り返した創設当時のターナー賞ですが、90年にある事件が起こります。スポンサーであった投資銀行が不況のあおりを受け倒産し、賞の開催が出来なくなったのです。
この不開催を機に翌年からはテレビ局のチャンネル4とのタイアップを得、賞金も倍増、これがターナー賞を英国国民全体の関心事項、お祭り行事に変えました。
この年に候補作家は50歳未満という縛りも生まれ、英国の若手作家を英国民全体で育てるという、現在のスタイルが確立されたのです。
90年代には、ヤング・ブリティッシュ・アーティストと呼ばれる20代~30代のロンドンの有名美術学校で学んだ若手作家たちが台頭しました。彼らの作品はスキャンダラスでインパクトが強いのが特徴的で、世間でも議論を呼び、そこでまた国民がターナー賞ひいては英国現代美術について語る機会が増え、国民に深く浸透していったといえます。
映像技術の発達でビデオ作品が多くなったのも特徴で、ダグラス・ゴードンのビデオ作品は、見せるスクリーンの角度や展示場所まで作家が指定をします。要は、作品のプレゼンテーションの仕方、つまり観客が作品を見るその環境をも含めて、ひとつの作品と捉えられるのでしょう。
ジリアン・ウェアリングの警察官がずらりと並ぶ映像作品、じっと見ていてください。この作品は1時間の長回しで、よく見ていると警官が苦しそうに少しづつ動いたりしているのが分かります。
また、大変ショッキングなアピアランスを持つ作品も多く現れます。
展覧会の目玉でもあるデミアン・ハーストの《母と子、分断されて》は、文字通り母牛と仔牛が「分断され」てホルマリン漬けされた作品です。
クリス・オフィリの作品《ノー・ウーマン、ノー・クライ》は、一見美しい様々な素材でコラージュされた大型絵画ですが、大きな茶色の塊は象の糞が素材に使われており、この手法はニューヨークの美術館での別作品展示の際にも当時のジュリアーニ市長から抗議が起き、論争を呼びました。
この作品は黒人女性が泣いている姿がモチーフになっていますが、よく見ると女性の涙の中に黒人の男の子の写真がコラージュされています。実はステファン・ローレンス事件という、ジャマイカ系黒人の少年が白人に殺害され結局はその白人が証拠不十分で無罪になるという、英国では大変有名な事件を示唆しています。英国に蔓延する人種差別を描いた作品とされています。
デミアン・ハースト《母と子、分断されて》 1993年
208.6 x 332.5 x 109cm (x2)、113.6 x 169 x 62cm (x2)
スチール、ガラス強化プラスチック、ガラス、シリコン、牛、子牛、ホルムアルデヒド溶液
アストルップ・ファーンリ近代美術館、オスロ蔵
クリス・オフィリ《ノー・ウーマン、ノー・クライ》 1998年
243.8 x 182.8 x 5.1cm
アクリル、油彩、ポリエステル樹脂、紙のコラージュ、地図用ビン、象の糞、カンヴァス
テート蔵


80年代までの長い経済不況から脱し、明るい展望が見えた90年代を過ぎ、ミレニアムを迎えてお祭りムードのロンドンでは、新しい経済の中心地「シティ」のテムズ川対岸にテート・モダンが設立されました。この近現代美術を専門に扱う美術館が、世界で最も注目を集めていた建築家のヘルツォーク&ド・ムーロンによって建てられ、英国の現代美術の注目度は国際的にもさらに高まりました。
この2000年代になると英国の現代アートはよりコンセプチュアルな傾向が強まり、ぱっと見では何か分からなく、より制作過程を重視するような作品が多くなります。
マーティン・クリードの《ライトが点いたり消えたり》は、空の展示室で電気が点く消えるを繰り返す作品で、これが美術作品か、ということで議論が起こりましたが、議論が起こることも彼の意図であり、コンセプチャルアートに対する彼の疑問・視座の投げかけとも言えます。
2003年受賞のグレイソン・ペリーの出展作品は美しい壷です。一見コンテンポラリーアートでは否定されがちな工芸・古典性ですが、それを逆手にとり、その壷には幼児虐待などの現代社会への警鐘や風刺を美しいタッチで描いています。彼は授賞式に女装をして登場し、美術館の前でも女性に扮し「No More Art(美術はもういらない)」とプラカードを持つパフォーマンスを行うなど、視覚的インパクトだけでなく制作の過程や意図が評価の対象になってきたこの時期のターナー賞らしい受賞作家です。
昨年の最新受賞者マーク・ウォリンジャーの映像作品は、ベルリンの新国立美術館で9日間泊りがけで、熊のぬいぐるみを着て行ったパフォーマンスの記録です。
ガラス張りのミース・ファン・デル・ローエ設計の美術館の中で、熊が夜間ひとりで過ごしています。冷戦時代に西ドイツの人々が常に監視されていたその静かな恐怖感と、美術館の近くにベルリン動物園があるのですが、常に人から見世物にされている檻の中の熊を示唆するという、ダブルミーニングが感じられます。
ヴォルフガング・ティルマンス
《君を忘れたくない》 2000年
インクジェットプリント
Courtesy: The artist and Maureen Paley, London

グレイソン・ペリー
《ゴールデン・ゴースト》 2001年
67 x 直径35.5cm

サーチ・ギャラリー、ロンドン蔵


今回の展覧会の入り口には、賞の名前の由来となっている英国の画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの1835年ころの作品作《岸で砕ける波》が展示されています。
ぜひ作品を良く見てみてください。具象絵画が全盛だったその当時、既に評価を得ていた風景画家ターナーですが、この作品のように具体的な風景を対象物として描いているにもかかわらず、いったい何が描いてあるのか分からないような抽象的なタッチ。現在英国で最も有名な画家であるターナーですが、その当時には理解されずに非難されることもあったといわれます。その意味でも、賞の名称にふさわしいターナーの作品と、近現代の作家たちの作品を同時に見、英国美術の歴史を読み解いてみてください。